最後の猫
それから1年後。
近所の子供達が公民館の裏に集まってて段ボールを囲んでいた。
入っていたのは捨て猫、生まれて間もないトラ猫だった。ニャーニャー鳴いてるのが可愛くて、大きくなったら本当に虎みたくなるんじゃないかとか、わいわい盛り上がった。みんな家から残飯を持ち寄り数日間面倒を見ていたんだけど、誰かが雨が降ったら死ぬかもと言って、みんな心配になってきた。
けれど、家に犬がいるからとか親が猫嫌いとか…連れて帰れる子はいなくて、みんな無理。
うちも猟犬がいるから駄目だと言ったんだけど、公民館の裏で一番近いという事もあり、みんなに推されて説得されて結局、家に連れ帰って来てしまった。
弟達が猫を歓迎し喜んでくれたので少し強気になり、母も駄目とは言わなかったので期待感が膨らんだ。あとは父の決済を待つだけ。
これが一番ハードルが高い。父は毎日怒鳴り散らしたり、母に手をあげる人だったのでみんな恐れていた。
そして夕方、父が帰ってきた。
猫を見て、呆れたような声を出したが良いとも悪いとも言わない。何か考えてような顔で暫くいたがボソッと、うちは犬がいるからなあと呟いた。
でも怒られなかった、許してもらえるかも知れない。
淡い期待だった。その夜、父は無言で支度を始め、母が猫を捨てに行くよと説明した。
ドン底に落ちた、やっぱり駄目。箱を抱え車に乗り、どこに捨てるんだろうと心配した。でも、もっと恐ろしい事がまっていた。
町外れの大きな河原で車は止まった。
猫を川に流すという。
あの時の恐ろしさ絶望感といったらなかった。真っ暗な河原で車から猫をおろすよう言われたが泣き叫んで抵抗した。弟も泣いて箱にしがみついた。
暫く押し問答して…子供たちが余りに抵抗するのを見兼ねた母が余所に持っていこうかとか代案を出したが、父は大声で怒鳴り、強い口調で言い切った。
「絶対に駄目だ!どういうもんか教えなきゃ駄目だ!猫は川に流すと言ったら流す!」
箱は取り上げられた。父は箱を持って暗い川にずんずん入っていく、箱のフタは開いてて子猫が見えた…こちらを見て鳴いていた。
子供たちは悲鳴をあげて泣き叫んだ。名前がまだ付いていない、その猫に向かって「猫ちゃーん!」と叫んだ。
毎年、人が溺れ死ぬようなデカくて流れが速い川。漁師みたいな格好をした父は深いとこまで進んで箱を離した。箱はあっという間に遠くに、暗闇に流れていった。わたしと弟は鳴き声と姿が見えなくなるまで泣き叫んだ。
あれから、あの出来事を受け入れるのに時間が掛かった。何で川に流したのか理由を母に何度も問い詰めた。
最終的な結論は、父が駄目だと言ったら駄目で権限は父にあること、捨て猫は死ぬ運命で苦しまないように川に流すのが1番幸せだという事だった。
子供心に全然納得していなかったけど諦め、それから猫には近づかなくなった。
私は父に対しても心を閉じた。